ヴァシルが食事と食器を並び終えた。 
                          「下がっていいぞ」 
                           ヴァシルが首を振った。 
                          「ふたりだけにはできません」 
                           眼を険しくしたアダンガルがきつく下がれと命じた。ザイビュスがはっとアダンガルを見つめた。 
                           ヴァシルが一瞬眼を窄めたが、お辞儀して出ていった。扉の前に立ち、『耳』を澄ますと、会話はかすかに聞こえていた。 
                           ヴァシルが出て行ってすぐに、アダンガルが手で椅子に掛けるよう示した。 
                          「食べようか」 
                           アダンガルの向かい側に座った。並んでいる皿を見て、ザイビュスが不機嫌そうな顔をした。 
                          「こんな……不衛生なもの……」 
                           アダンガルが赤い汁の中にごろんと入っている大きな豆をスプゥンですくった。 
                          「もし腹を壊すかもと心配しているなら、後で薬を飲めばいい」 
                           まだそのくらいの薬はあるだろうと豆を口に運んだ。 
                           なにかの肉と豆がごろごろ入っている赤いスゥウプ、生臭い臭いの魚らしき破片と葉物、こげ茶の硬そうなパンだった。 
                          「この肉は鳥肉だ。鷲だから、筋があって硬いが、よく煮込んである。こちらは魚の酢漬けだ。パンは硬パンと言って旅をするときに持っていく日持ちのするパンだ」 
                           ザイビュスはしばらくアダンガルを見つめているだけで手をつけようとしなかった。アダンガルは気づいていながら、かまわずに食べていた。 
                          ザイビュスがようやくスプゥンで赤い汁をすくって一口含んだ。 
                          「うっ……」 
                           辛さなのか、鼻にツンと来る。臭いのきつい妙な肉も筋張っていて噛み切れなかった。ずっと口の中でもそもそとやっているのでアダンガルがフォオクを置いた。 
                          「ザイビュス」 
                           呼びかけられて頭を上げた。 
                          「食べられないなら無理しなくていい」 
                           ザイビュスがフォオクを置いて、口から手ぬぐいに肉を吐き出して、うなだれた。しばらくしてぽつっとつぶやいた。 
                          「おまえは……マシンナートが負けると思ってるんだよな」 
                           アダンガルが立ち上がって、壁際の棚で茶を入れた。茶碗を温め、葉が開くように湯を茶器に注ぎ、布を掛けてゆっくりと蒸した。 
                          「もちろんだ」 
                           万に一つの勝ち目もないと断じた。ザイビュスが急に肩を震わせた。 
                          「それって……俺が……死んでもいいと思ってるってことだよなっ……」 
                           茶碗を湯で温めながら、眼を伏せた。 
                          「死んでもいいなんて、思ってない」 
                           ゆっくりと茶器を傾け、琥珀色の茶を白い茶碗に注いだ。 
                          「おまえは、ずっと俺のこと『おまえ』呼ばわりだし、約束もしていないのに、したと言い張るし、俺を責めるようなことを言うし、ほんとうに無礼で不愉快なやつだ」 
                           茶碗を両手で丁寧に運び、両手で皿を受け取るよう差し出した。ザイビュスは戸惑いながら受け取り、卓の上に置いた。アダンガルは自分の分も自ら運び、椅子に座った。 
                          「だが、ひとりになってもこの島に残って、しかも魔導師たちの手助けをしてくれたことには感謝している。だから、こうして夕食を共にした」 
                           ザイビュスが湯気が立ち上る茶碗に眼を落としていた。 
                          「俺はこれからセラディムに帰り、父王と弟の王太子を退けて、国王になる。そうしたら、もうこのように誰かのために茶を入れることはない」 
                           ザイビュスが顔を上げた。眼を見張って、アダンガルを見つめてきた。 
                          「誰かのために茶を入れるのは、これが最後だ。それは、おまえのために入れた。ゆっくりと味わってくれ」 
                           手を差し出して飲むよう勧めた。ザイビュスが茶碗を持って縁に口を付けた。 
                          「あつっ!」 
                           アダンガルが苦笑し、自分も飲んだ。ザイビュスが唇を火傷したと文句をいいながら、もう一度口をつけた。 
                          「……苦い……」 
                           ぽつりとつぶやいた。アダンガルがいい茶だぞとゆっくりと飲み干した。 
                           
                           ザイビュスも少しずつ飲み、茶碗を皿の上に置き、また、じっとアダンガルを見つめた。 
                          「どうせ、無礼ついでだから、もうひとつ、無礼を言う」 
                           アダンガルが言ってみろと苦笑した。ぐっと唇を噛んでから、目を伏せた。 
                          「おまえの裸が見たい」 
                           アダンガルが意外な言葉に、えっと目を見開き、ザイビュスを見返した。 
                          「なにを……言い出すのかと思ったら」 
                           呆れてしまい、怒ることも忘れた。 
                          「だめか」 
                           当たり前だろうと不愉快そうに首を振った。 
                          「なんでそんなことを」 
                           ザイビュスは応えずに、肩を震わせた。 
                          男色なのだろうか。ずっと示していた自分への興味は、単にシリィが物珍しいからだと思っていたのだが、それ以上の感情があったというのか。 
                          そういえば、レヴァードとふたりきりになったり、親しく話をしたりするのを嫉妬していたようにも見えた。 
                          アダンガルは、目の前の貧弱な身体の小男が自分に欲情をしているのかもと思い始めたら、身体が熱くなってきた。 
                           がっかりしている様子に、もしそうなら、応えてもいいかと立ち上がって、服を脱ぎ始めた。 
                          「えっ……」 
                           自分で望んでおいて、ザイビュスはびっくりして仰け反っていた。まさか、ほんとうに脱ぐとは思わなかったのだ。 
                           アダンガルの傷だらけの肌が見えてきて、ザイビュスが顔を赤くして椅子から立ち上がった。 
                          「ああっ……」 
                           そろそろと手を伸ばしてきて、鍛え上げられた胸板の傷を縫った痕に指先で触れた。 
                          「すごいな、この……これは縫ったのか」 
                           感心しているようだった。アダンガルがうなずいた。 
                          「ああ、そうだ。匪賊……武器をもって民を襲って、金や食料を奪うものたちがいて、その討伐に行ったときのものだ」 
                           油断していたわけではないが、夜営を急襲されて胸当てもしていなかったので、斬られてしまったのだ。命に別状はなかったが、痕が残った。 
                          「そうか……」 
                           ゆっくりと傷痕を辿り、顔が付きそうになるくらい近付けて、まじまじと見ていた。 
                          「珍しいか、縫痕が」 
                           ザイビュスがああとため息をついた。肩口くらいまでしかないザイビュスを見下ろした。息を荒くしたザイビュスが左手で自分の股間を擦っていた。 
                          「おまえは、男色なのか」 
                           アダンガルの声に頭を叩かれたように、はっと顔を上げた。 
                          「だ、だんしょくって……」 
                          「男が男に欲情することだ」 
                           ザイビュスの右手を握った。ザイビュスが首を振って、引き下がった。 
                          「ち、違う! 俺は!」 
                           なにが違うとザイビュスの股間に触れた。 
                          「や、やめろ、触るなっ!」 
                           かなり硬くなっている。貧弱な身体の割りに大きいようで、自分に欲情したザイビュスの男根が見たくなって、つなぎ服の前を開けた。ぶるっと出てきた男根は硬く立ち上がり、亀頭も張っていて、長くはないが太かった。 
                          「ずいぶんと……身体に合わないものを持っているな」 
                           みだらなことを言われて、ザイビュスが真っ赤な顔を逸らした。ぐいっと握り締めた。 
                          「わあっ、やめろっ!」 
                           やめろと口では言っているが、身体はその刺激に反応して、鈴口から透き通った先走りをじわじわと滲ませ始めた。 
                          「くっ……やめろっ……お、おれは……」 
                           鈴口も刺激してやりながら、ぎゅっと抱き寄せて、耳元で囁いた。 
                          「そんなに俺の身体の傷が見たかったのか……」 
                           ザイビュスが感じたらしく、ぶるっと震えて、うなずいた。 
                          「もっと……見せてやる」 
                           下穿きの紐を緩めて、落とし、全裸になった。アダンガルの男根も立ち上がっていた。腹の右から左の脚の付け根まで、太い傷があった。 
                          「こ、これは……こんなに……」 
                           ザイビュスが膝を付いて、その傷に顔を近づけた。荒くした息が掛かる。舌を出して、舐めるような仕草をした。 
                          「どうした、舐めていいぞ」 
                           アダンガルが気が付いて許すが、ザイビュスは直接は触れずに震えながら舌で傷を辿るような仕草をしているだけだった。左手で自分の男根を扱き出した。 
                          「自分だけ気持ちよくなるのか」 
                           アダンガルが男根の先をザイビュスの口に近づけた。 
                          「口に咥えて、慰めろ」 
                           ザイビュスが仰け反って離れた。 
                          「そんな、汚いことできるかっ!」 
                          アダンガルがザイビュスの頬を叩いた。 
                          「いっつ!」 
                           床に仰向けに倒れたザイビュスの股間に顔を埋めた。 
                          「なにするっ!」 
                           太く張っている亀頭を口に含み、舌を絡ませるようにしてねぶりだした。 
                          「うっ、やだ……そんな……きたないっ……」 
                           上半身を起こし、頭を振って逃れようとしたが、すぐに抵抗しなくなった。ねぶられる快感が不快さに勝ったのだろう、深く吐息を付き始めた。 
                          ザイビュスは、マスタァベェエション以上に興奮する性感を感じてきた。 
                          「汚くなどない……俺に欲情している……おまえの……もの……」 
                           アダンガルの喘ぎが激しくなっていく。 
                          「いとおしいぞ、おまえの男根……」 
                           舌で丁寧に張り切った肉棒を嘗め回し、根本を擦り上げた。ザイビュスがああっと目を見開き、男根をすっぽりと含んだアダンガルの頭を押さえて、腰を動かし始めた。 
                          「アダンガル……せ、背中にも……」 
                           背中にもたくさんの傷があった。その傷をすりすりと手のひらで擦り出した。アダンガルの口の中で太い肉棒がさらに硬く膨れてきた。 
                           アダンガルは、少年の頃に部下だった男に抱かれたときのことを思い出した。あのときの男のものよりも太く、先が張っている。 
                          ……こんなものが……尻に入ったら…… 
                           傘のように張っている先が、尻の中の敏感なところを刺激して、『男』のものではない快感を感じるだろう。こんなに太くて張っているから、あのときに感じた快感を上回るかもしれない。 
                           アートランのものを入れたいとは思わないが、ザイビュスのものは入れてみたい。あの夜のように狂おしい快感を味わいたい。その欲情が強く突上げてきた。 
                           アダンガルが自分の先走りを指に付けて、尻穴を解し始めた。 
                          「な、なにしてるんだっ!」 
                           ザイビュスが驚いて腰を引いた。 
                             
                           ザイビュスも、男同士の性交渉がどうやるのかくらいはわかる。まだ、フェロゥ(研究員)だったころ、指導教授セラガン大教授のラボの先輩で同性愛者のファドレスに、何度か性交渉しようと誘われた。そのときにいつもの個人的興味で調べたのだ。先輩のことは嫌いではなかったし、同性愛に偏見はなかったが、誰かと粘膜で接触するのは、汚いことと思えて、断り続けた。その後も、男女問わず性的な接触をしたことはない。 
                           傷痕への興味は、子どものころの怪我が原因だった。育成棟で同級生とふざけていて硝子の実験器具で手を切ってしまい、傷が深かったので、縫合した。そのときの縫合痕に妙に魅かれ、撫でたり、口で触れたりしていたが、すぐにキレイになくなってしまった。 
                           旧都に行く途中に寄った療養棟で殺菌するために服を脱いだアダンガルの身体に傷痕がたくさんあった。子どものときの縫合痕よりも荒々しく生々しい。そして、その傷痕に興奮した。 
                           アダンガルには、最初に会ったときから、興味があった。最初はいつもの個人的興味からだったが、逞しい身体つきや落ち着きのある容貌、堂々とした態度が、とても興味深かった。傷痕を見てからは、アダンガルに性的興奮を覚えて、傷痕を舐めるところを思い浮かべながら、マスタァベェエションした。 
                          「アダンガル……俺のを……肛門に……」 
                           自分で自分の尻穴を解しているのだ。そこにザイビュスの陰茎を入れたがっているということだ。 
                           ようやくザイビュスのものから口を離し、仰向けに床に横になった。あの誇りと威厳に満ちた顔が、欲情に乱れていた。 
                          「ああ、入れていいぞ」 
                           大きく股を広げ、二本の指で尻の穴を広げ、少し腰を浮かして、みだらな姿でザイビュスを誘った。 
                          「そんなの……」 
                           できないと思いながらも、ふらふらと引き寄せられるようにアダンガルの股の間に身体を入れた。しっかりと張った傘の先を近づけたが、できなくて、腰を引いた。 
                          「こんなの、汚い」 
                           陰茎に大便が付くかも。そんな不衛生なこと、身震いがするほど嫌だ。 
                          でも、陰茎がアダンガルを欲しがって痛いほど勃起している。どうしたらいいのか。 
                          涙が溢れてきた。 
                          「俺が欲しくないのか、そんなに、欲情しているのに……」 
                           アダンガルがもどかしくなって、起き上がり、ザイビュスを床に押し倒した。 
                          「汚い、性交渉なんて、汚い」 
                           身体を振って逃れようとしたが、アダンガルの強い力で押さえ込まれて、できなかった。 
                          「ザイビュス、さっき、俺は帰国したら国王になると言っただろう」 
                           ザイビュスが涙目をアダンガルに向けた。アダンガルは興奮して息を荒し、みだらな目でザイビュスの肉棒を食い入るように見ていた。 
                          「国王になったら、継嗣を儲ける……女と寝て、子どもを作るのもワァアクになる……」 
                           ザイビュスのものをぐいぐいと握りながら、またがって尻の穴に亀頭を付けた。 
                          「茶を入れるのも最後なら、男に抱かれるのも……これが最後だ」 
                           ぐっと腰を落とした。ザイビュスが悲鳴を上げた。 
                          「わあっ!」 
                          「がぁっ!」 
                           アダンガルが背中を逸らした。頭が少し入ったところで、あまりに大きくて、それ以上進まず、止まってしまった。 
                          「俺の中で……」 
                           痛みを堪えながら、進ませようとして、腰を落としていくと、ようやく頭が入り、後は、ずううっと入っていった。 
                          「気持ちよくなってくれ、ザイビュスッ!」 
                          「ああぁぁっ、アダンガルゥ! ああっ!」 
                           ザイビュスは、背筋を駆け上がる性感に刺激されて、ビクビクッと震えた。 
                          「ああっ、あっ、おまえの男根、気持ちいいっ!」 
                           思ったとおり、太く張った傘が敏感なところをぐいぐいと刺激して、白濁が混じった汁を押し出した。ザイビュスもアダンガルの尻の穴の中の肉壁にぎっちりと包み込まれて、ぬめぬめとした感触に我を忘れた。 
                          「アダンガル、汚いのに、汚いのにっ!」 
                           自分で動きたくなって、起き上がって、アダンガルを仰向けに倒し、激しく腰を進め始めた。 
                          「腰が勝手に動くっ!」 
                           濡れた淫猥な音と、みだらな臭いが広がっていく。 
                          「ああっ、いいっ! もっと、突いてくれ!」 
                           激しく、壊れるほどに。 
                          アダンガルが胸の傷の当たりを掴みながら身悶えた。ザイビュスが伸し掛かり、激しく突きまくりながら、胸の傷を舌で辿り始めた。 
                          「そんなに気に入ったか、俺の傷痕」 
                           ああっとうめきながら、腹の傷痕も手で擦った。 
                          「背中の傷痕も……舐めてくれ」 
                           後ろから入れながらと四つんばいになったアダンガルの尻の山をザイビュスが割った。尻にもたくさんの傷痕があり、それをさすりながら、淫汁に濡れて光っている窄まったところを広げた。 
                          「肛門なんて、汚いのに、入れると気持ちいいなんて……俺はヘンになったみたいだ」 
                           もともと変わり者だろうとアダンガルが苦笑した。ザイビュスがすねたように唇を尖らせ、自分の肉棒を握って、穴に押し込んだ。 
                          「あっ、ああっ!」 
                           ずっぽりと納まり、動かし出した。背中を摩りながら、覆いかぶさり、届くところの傷痕を舌で舐めた。舌の先で傷痕のうねりを感じ取り、興奮して、頭の中が真っ白になっていく。 
                          アダンガルが背骨沿いに舐められて、ぞくぞくと感じ、身震いした。ぎちぎちに詰まった尻の中もあの狂おしい快感が満ちている。 
                          「感じるうぅぅ」 
                           自分で男根を扱き、白濁が混じった汁を撒き散らした。 
                          「アダンガル……おまえの中っ……気持ち……イイッ……!」 
                           ザイビュスがアダンガルの中に射精した。 
                          「いっ、いいいっ、いくぅぅっ!」 
                          それを感じて、アダンガルも精を噴き出した。 
                           ぐったりとなって自分の上に倒れこんだザイビュスの頭をアダンガルが撫で、顎を掴んだ。 
                          「ザイビュス、口付けしよう」 
                           順序が逆だなと目元を緩めて、引き寄せた。 
                          「待てっ、キスは……!」 
                           嫌だと拒もうとしたが、抱き締められ、身動きできないまま、唇を奪われた。 
                          「ううっ……」 
                           泣きながら、アダンガルの舌が口の中をまさぐるのに耐えた。ようやく離されて、テーブルから手ぬぐいを取った。 
                          「まったく、もう……汚いな……」 
                           うええっと唾を吐き出し、口を拭った。 
                          「おまえは、ほんとうに無礼で不愉快なやつだな」 
                           アダンガルが起き上がりながら苦笑した。 
                         送らなくていいというのに、ザイビュスは外に出てきた。満天の星の下、ヴァシルが行きますとアダンガルを抱え上げて、飛び上がった。 
                          「アダンガル!」 
                           ザイビュスが見上げて呼びかけた。エリクトリクトォチの光で自分を見下ろしているアダンガルがわずかに見えていたが、たちまち夜空に紛れて見えなくなった。しばらく見上げていたザイビュスが、やがて唇にふっと笑いを浮かべて中央棟に戻っていった。 
                         夜空を東目指して飛びながら、アダンガルがずっと顔を伏せたままのヴァシルに呼びかけた。 
                          「聞いていたのだろう、部屋の中でのこと」 
                           ヴァシルがはっと顔を上げた。暗闇だが、もちろん、ヴァシルにははっきりと見える。まだ余韻が残っているのか、頬が薄く染まっていて、目元も緩んでいた。落ちないようにとしっかり抱きかかえている身体からは、シャワーで洗い流してもまだ残っているみだらな臭いがしていた。 
                          「もしものことがあったら困りますから、『耳』は澄ましていました」 
                           それは、『こっそり』探るのが不慣れなヴァシルでも当然のことである。国王となる大切な方だ。なにかあっては困るのだ。 
                          「軽蔑するか」 
                           いえとヴァシルが首を振った。生真面目なヴァシルのことだ。あのようにみだらな、しかも男同士の行為の様を聞かされて、さぞ不愉快になっただろうが、もしそう思っても、はいとは言うまい。 
                          「そうか」 
                           アダンガルが大きく吐息をついて、目を閉じた。 
                           ザイビュスがテクノロジイを捨てることがあれば。 
                          ……ありえんな…… 
                           おそらく、ないだろう。 
                          自分を抱いた翌朝、池に浮かんだ部下の男のように、ザイビュスもまた、南海の島で果てるような気がした。 
                           
                          (END) 
                         
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