アートランの左腕がおかしいことに気が付いてアダンガルが掴んだ。
「どうした、これは」
半袖から黄金の鱗のようなものが見えていた。アートランが胴衣を脱いだ。左胸と左の二の腕まで、円盤状のものがびっしりと重なり合っていた。
「ジィノム操作で大きくされたパルアーチャ……好きになったから食ったら、あいつの身体の毒でこんなふうになった」
アダンガルが相変わらずだなと呆れた。あの養魚プラント事故はアートランの仕業とはわかっていたが、食っていたとは思わなかった。
「一匹残らず食べてやりたいけど、さすがに全部は食べられない」
だからもう止めさせるとアートランが鱗に触れた。アダンガルも指先で鱗を撫でた。
「まったく、おまえは魔導師ではなく、魔獣《マギィクエェト》だな」
アートランが、ぷいと顔を逸らした。
「好きになったから……か……」
いきなり引き寄せ、きつく抱き締めた。
「……きついよ……」
大人びた顔でアートランが目を細めた。アダンガルが険しい眼で睨みつけた。
……俺の気持ち…わかっているくせに……
いつもからかうようなことばかり言う唇を塞いだ。
アダンガルは、もともと女が苦手だった。後宮の女たちの醜い争いを見てきたせいなのか、そうではない女もいるとはわかっていたが、関心が湧かなかった。その上、ひとつ年下なのに十二で、すでに酒と女で爛れた生活をしているヨン・ヴィセンや女好きの兄王のようになりたくないという気持ちがあって、ことさらに避けていたのだ。いずれは王族の義務として妻を娶り、側女を置き、継嗣を儲けなければならないことは重々わかっていたし、義務を怠るつもりはなかった。だが、義務以外は避けたかった。
十三のとき、ヨン・ヴィセンに媚薬を飲まされ、無理やり女を抱かされたが、女を知ってもその気持ちは変わらなかった。側に置いて心地よいのは男だった。女をはべらせて過ごすより、側近や軍部の部下たちと遠駆けしたり酒を酌み交わすほうが楽しかった。男を抱きたい、いや、抱かれてもいい。相手の男が望むならとすら思っていた。
十七のとき、西オルトゥムが新王即位のときの『慣わし』で戦争を仕掛けてきた。本来は王太子であるヨン・ヴィセンが出征すべきだったが、国王がアダンガルを大将軍に任じたのだ。そのときに副官になった将軍は、まだ二十代半ばの若い軍人だった。大公家の三男で、豪胆で気さくな感じで、部下たちにも慕われていた。アダンガルにも深い敬意を払い、若いふたりは意味のない形式的な戦争を終わらせたいと意気投合して、西オルトゥムの王都にまで攻め入って、二度と『慣わし』で戦争は起こさないと約束させた。
その戦勝の祝賀会の夜、宴が終わってから、ふたりで祝杯を上げていたとき、将軍は、アダンガルに告白してきた。「あなたを抱きたい」と。アダンガルが不埒なと怒ると、どうか手打ちにしてくれと首を差し出した。だが、アダンガルも将軍には惹かれていたのだ。身体を重ねることを想って身体を熱くしていた。同じ想いだったと知り、アダンガルはその夜、将軍に抱かれた。
翌朝、王宮の池に浮かんでいる将軍が見つかり、泥酔しての事故と発表されたが、そのとき六つになっていたアートランから真相を聞かされた。ヨン・ヴィセンがアダンガルの醜聞を流されたくなかったら、自殺しろと脅したのだ。将軍は、アダンガルを守るために自ら命を絶った。
子どものころから、ヨン・ヴィセンには、大切なものを壊されたり、焼かれたりしていたが、ここまでするとはと恐ろしさと憎しみが増していった。同時に自分に関わると痛ましいことになるとわかり、それからは部下や気に入りがいても、あまり親しくしないようにした。周りもそれとなく敬遠するようになり、孤独になっていった。ただひとり、アートランだけは、赤ん坊のころからかわいがっていたこともあって、少しも変わらずに慣れ寄ってきてくれた。アートランはこれみよがしにアダンガルと仲良いさまを見せ付けたが、ヨン・ヴィセンもどうにかしてやりたいと思っていても、さすがに魔導師には手を出せるはずもなかった。
アダンガルは、この生意気な『小僧』にずっと魅かれていた。今でも、そしてこれからも。たとえアートランの気持ちが別のものにあったとしても。アートランが男だからというだけではない。替えがたい大切な存在だからだった。だが、あくまでも、アートランとは疎まれたもの同士の結びつきだ。アートランにとって、自分は同士、あるいは主従関係なのだ。それ以上の結びつきはないことはわかっていた。
どうせ本気で拒まれたら何もできはしない。拒まない限り、このひとときの間だけは俺のものだ……。
ベッドに押し倒して、強引に唇を割り、舌を入れると、アートランはすぐに絡ませてきた。濡れた音がするほどに吸い合い、絡ませる。開けた唇の縁から唾液が滴り落ちて、顎を伝う。
「うう……んん……」
アートランがアダンガルの唾液を飲み込んだ。アダンガルの大きな手のひらがアートランの下穿きの中に入り込んで、まだ柔らかいままのものをぐっと握った。
……接吻では……欲情しないか……
自分のほうはとっくに硬く立ち上がり、腹を打たんばかりに反り返っている。悔しくて少し乱暴に扱き出した。
「いつっ……!」
アートランが少し腰を引いた。
「痛いわけはなかろう」
アダンガルが下穿きを降ろし、大きく股を広げさせて、まだ子どもの男根を口に含んだ。
「うっ……」
アートランが背中を逸らし、顔を赤らめた。
アダンガルに抱かれるのは初めてだった。まだアートランが六つか七つくらいのころに、戯れのように口付けしたことはあったが、アダンガルは、アートランがわざとらしく誘ってきても触れようとしなかった。どんなに惹かれていてもまだ子どものアートランを抱くような恥知らずではなかった。だが、セレンとの結びつきを知り、そして、『決断』のときが来たことで、アートランへの想いにけじめをつけようとしているのだ。
いとおしげにアートランの男根をねぶるアダンガルの愛撫が、アートランの情欲を刺激した。欲情して、血が下半身に集まっていく。男根がどくっどくっと脈打ってきた。
「俺の愛撫……で……感じている……アートラン……」
濡れた音を立てながら含み、舐め上げ、まだ小さな袋をさすり、袋からすすっとさらに奥に手を伸ばした。
「あっ、ああ……そんなのしなくて……いいのに……」
ほぐすこともなく、熱く太い肉棒をそのまま突き刺されたとしても、痛みに強い魔導師のアートランは受け入れられる。だが、アダンガルは、そうせずに、指で入り口を何度も撫で、ツプッと差し込んだ。
「あっ……」
ゆっくりと出入りを繰り返し、ほぐしていた。ベッドの上に座り、アートランを抱き起こし、頭を押さえつけて、股間にそそり立っている男根に顔を近づけた。
「準備をしろ」
舌を出して、しっかりと張っている亀頭の部分を舐め始めた。アダンガルの唇から熱い吐息が漏れる。
「はあっ……ああっ」
アートランが口を大きく開けて含み、舌を絡ませ、口を窄めて激しく吸い上げた。喉の奥深くまで吸い込んでいく。手も使って濃密に愛撫する。
……俺、すごく感じてきた……
含んでいるアダンガルの男根から漏れている先走りが口の中いっぱいに広がってきて、アートランがその発情した獣のような臭いと味にくらくらとしてきた。アートランの腰が揺れてきた。
「欲しいのか」
息を荒げたアダンガルがアートランの揺れる尻を片方の手で掴み、割れ目に滑らせて、指を二本ねじ込んだ。
「それじゃなくて、こっちがいい……」
アートランが男根から口をはずして、手でこすり上げながら、上目遣いで見上げた。アダンガルが不敵な笑いを口元に浮かべた。
「こっちって、どれだ」
アートランが舌を出して、ぬめぬめと照り光っている柱の裏を舐め上げた。
「あなたの……この……肉棒……俺の尻に……ほしい……」
アダンガルはアートランを仰向けにして、腰を高く上げさせて、股間に身体を入れた。
狭く窄まったところに亀頭を押し付け、ぐいっと押し込んだ。
「はあっ!」
口を開けて、息を吐き、アダンガルの男根をすっぽりと根元まで受け入れた。身体がつながった瞬間、アートランの心と身体にアダンガルから激浪のような想いが流れ込んできた。
……アートラン、俺のものだ! 俺のものだ!……
……アダンガル様……そんなに俺のこと……
「…アダンガル様…激し…いっ…」
熱い肉棒を激しくねじ込むように押し込み、中の肉壁を引っ張り出すように引き出し、繰り返した。
粗末で狭いベッドがギシギシッときしむ。
肉を叩く音に混じって濡れた音が淫猥に響く中、アートランは、セレンのことを想っていた。この間帰ったときも、カサンと仲良くしている様子に『やきもち』焼きながらも、心を読むことはできなかった。きっと自分のことなど、もう……。
……俺だってあなたのこと好きだけど、セレンへの気持ちとは違うんだよなぁ……。
身体が熱く荒っぽくなればなるほど、心はセレンへの想いにせつなくなる。アダンガルが自分にそれと同じ気持ちを求めている。だが、身体はいくらでも与えてやれるが、セレンへの想いとは替えがたかった。
そんな気持ちとは別に、次第に身体がアダンガルとのみだらな行為に夢中になっていく。
アダンガルがアートランを上に乗せて、突き上げ、アートランも我を忘れたように頭を振り、身体を上下させた。
「いいっ! 奥、いいっ!」
飲み込んだ肉棒が灼熱の鉄棒のように硬く熱く、尻の中を抉っている。それが尻の中の敏感な部分をガツガツと刺激して、アートランの男根の先から透き通った先走りを押し出していた。
「いいのか、アートラン」
こくこくっとうなずいて、涙で潤んだ目でアダンガルを見た。
「アートラン、おまえが……こんな顔するなんで」
いとおしくてたまらなくなってアダンガルがぎゅっと抱き締め、口付けした。
繋がったまま、アートランの身体の向きを変えて、後ろから突きまくった。
「うああっ! あああっ!」
あまりの激しさと深さにアートランが背を逸らしてベッドの敷布を握り締めた。アダンガルの手がアートランの男根を握り、絞るように擦り上げた。袋から精がぐうっと噴きあがってくる。
「い、いくぅッ!」
アートランが我慢せずに解放に身を任せた。アダンガルの手の中に白濁した精を放った。
「俺より先に果てるとは」
許せんとアダンガルが精のついた手をアートランの口の中に入れた。舐め取れと耳元で囁いた。アートランがぞくっとして、尻の中のアダンガルのものを締め付けた。
「まだこんなものでは終わらんぞ」
アートランも自分の精を舐めながら、そのみだらな臭いと味に興奮して、ふたたび、男根が硬く立ち上がっていった。その様子を見て、アダンガルがうれしがり、また手で愛撫しながら、抉るように突いた。
「待って……しごかないでくれっ……」
すぐにまた出てしまいそうだった。
「だめだ、俺がいくまで我慢しろ」
ぐっと歯を噛んで、敷布を握って、こらえた。尻が壊れてしまいそうになるくらいの強い交接で、昂ぶりを迎えたアダンガルが、アートランに覆いかぶさり、男根を握り締めながら、ぎゅっと抱きすくめた。
「いく……ぞっ……!」
アダンガルからぐわっと噴出してきた精が尻の奥で広がり、その欲情の粒が身体中に散らばった。
「ああっ! はああっ!」
アートランも絶頂に達して精を散らしていた。
ずるっと抜けたアダンガルの男根から残りをすすっていると、アダンガルのものがまた欲情して張ってきた。アートランも身体中に散らばった欲情の粒がはじけて、ますます興奮していた。
「もっと、あなたの精がほしい」
アートランが甘えるような声を出した。アダンガルがうれしそうに頭を撫で、口の中に放とうと腰を動かした。熱い肉棒の先が喉の奥に当たって、はじめ、えずきそうになったが、喉の奥をゆるっとゆるめて、信じがたいほど喉奥まで受け入れた。
「全部受け止めろ」
頭を押さえつけ、ぐうっと押し込んで、うっとうなった。喉の奥にねっとりとした液が溢れ、張り付いた。
ごくっと喉を鳴らして、飲み込んだのを感じて、口から男根を離した。
「ああっ……」
アートランがまだ精の粘りが残る口を開き、みだらに崩れた顔をアダンガルに見せた。
「なんて、みだらな……魔獣だ」
その顔を見ているだけで、みたび、下部に血が集まり、高まっていく。ベッドに仰向けに押し倒し、目一杯股を広げて、もうぐっしょりと濡れている尻の穴に突き刺した。
敏感なところだけでなく、尻の中がどこも感じるようになって、アートランがあえいだ。
「ああぁ、ああはあああっ、いいっ、ようぅっ」
「そうか、そんなにいいか」
激しく突きまくるたびにアートランがあえぎ、ビクビクッと痙攣した。アダンガルもみだらな獣になってアートランの身体をむさぼった。
ふたりの交接は、夜が明けるまで、何度も繰り返されていった。
(END)
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