(続く) 
                          ⇒No.2 
                           そう・・・ぼくは、この瞬間、ネット・デビューした。  
                           
                          ■jun>こんばんわ、はじめまして>all  
                          ・・・とにかく、挨拶だけでもして、出よう。  
                           
                            どうしよう! でも、せっかく挨拶してくれているのに、レスもしないで、退室するのは、失礼だ。  
                           
                          ■チーママ>こんばんわ、はじめてかしら?>jun 
                           
                           えっ!? しまった! 指先が震えて、クリックしてた!どうしよう!    
                           
                          ■お知らせ>junさんが入室しました  
                          ■チーママ>はぁ〜い(^^)、アタシの分もお願いねぇ>広  
                          ■広>ビール持って来る!>チーママ    
                           
                           まったく、チーママさんのいう通りだ、同感、同感・・・あっ!    
                           
                          ■チーママ>暇というより、そういうのこそ、おバカよ、役立たずよ、家庭や会社でまともに相手されないとかで、うちらに八当たりするくらいしかできない最低な奴なのよ>広 
                           
                           
                           そうなんだ、そういうことがあるから・・・  
                           
                          ■広>ここの前に行ってたチャットで友達が言ってたけど、掲示板で逞しいお兄さん募集なんて投稿があったから、メッセージ送ったら、「ホモ、バカ、死ね!」なんてメールが100通も送られてきたんだって、暇な奴もいるもんだよなあ>チーママ 
                             
                           
                           ぼくは細身ですよ!身長179cmに体重57キロだもん、年はちょっと離れてるけど、でも、広さんが気にしなければ、ぼくは・・・ 
                             
                           
                          ■広>そうだったんだ・・・(^^;<デブ専  
                          ■チーママ>あら、いわなかったっけ?うち、デブ専よぉ、細身の子がいいんでしょう、 広ちゃんも細身じゃん、だめね(笑) 
                           
                          ■広>誰かいないかな、いい子>チーママ<お店  
                           
                           学生時代には男の恋人もいたけど、会社の上司の紹介で結婚したものの、やはり同性がいい、子供も出来たし、ここらで、少し息抜きしたいと話していた。 
                            
                           
                             広さんは、ここ2.3日前から来るようになったばかりで、年齢は36、情報通信系の会社に勤務していて、既婚、子供もいる。 
                           
                           
                            最初は違和感のあったおネエ言葉も、このチーママさんの発言のお陰で慣れた。  
                           
                             チーママさんは、ハンドルネーム通り、ゲイバーのチーママらしく、面倒見がいいという感じで、初心者や新参者に、優しく話しかけていた。 
                           
                           
                            後には、やはり常連のチーママさんと広さんが残った。  
                           
                             kuzoさんは、「まったく失礼しちゃうわよねぇ、アタシが触るとしたら、絶対男よ〜(笑)」とおネエ言葉でしゃべくっているが、お固い銀行マンだった。 
                           
                           
                             過去ログによれば、常連の一人であるkuzoさんが、会社からの帰りの電車の中で、OLに痴漢に間違えられた事を苦笑混じりで語って、帰ったところだった。 
                           
                           
                            そして、今日も、いつものように、チャットルームを覗いていた。  
                           
                            でも、掲示板と同じく、なかなか勇気が出なかった。  
                           
                            参加したい! 何度、ハンドル名を入力し、参加ボタンをクリックしようと思ったことか。  
                           
                            時には、じっくり話したいからと、別のチャット・・パスワードなどで入室制限があるチャットルーム・・『個室』などというところに流れていく『カップル』もいた。 
                           
                           
                            挨拶から始まって、今日なにしてたの〜などという日常会話ばかりの時もあれば、話が進んでいくと、お互いの経験談などを話し出したりして、面白かった。 
                           
                           
                            「男だけの」チャットをロムするのも、日課となった。  
                           
                            誰かに知られたら、もし、からかわれていたりしたら、・・そして、何より、実際に関わることが怖かった。 
                           
                           
                             でも、掲示板のメッセージに返信するのも、自分が投稿するのも・・・ためらわれた。  
                           
                            バーナー広告にちらちら見える『お兄さん』の画像もうれしかったし、なにより、『出会い』を求めている掲示板があることに驚いた。 
                           
                           
                            そして、出て来たページを貪るように開いては読み、リンクページにジャンプしては読みということを連日連夜していた。 
                           
                           
                             だから、ネットを始めてまもなく、おそるおそる『関連』ホームページを検索して見た。  
                           
                             TVなどの生半可な知識ではあるが、『二丁目』にでもいけば、もしかしたら、ハッピーな『出会い』があるかもしれない・・・でも・・・ここは、『二丁目』からはあまりにも遠かった。 
                           
                           
                             そう・・・男の人に触られることを想像すると、まだ未熟なペニスが硬くなった。ぼくは男の人にしか、興奮しなかった。 
                           
                           
                            クラスメートたちが、ヘアヌードやAVなどでマスを掻くように、ぼくは、電車の中や本屋などでサラリーマン風のかっこいい『お兄さん』を見ると、便所の個室に駆けこんで、しこしこ扱いていた。 
                           
                           
                             この世界の誰一人ぼくの乾きを知らず、誰一人ぼくの乾きを癒せる人はいない。そんな孤独感や絶望感に苛まれていた。 
                           
                           
                             ネットを始める前のぼくは、陳腐な言い方をすれば、乾き切った砂漠で、身も心も潤すものを求めて彷徨う旅人のようなものだった。 
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