あっという間に九時になってしまった。最後に奥住が満足そうに言った。
「随分動きがよくなった。落ち着いて気持ちで負けないようにすれば、室生を困らせることはできる」
和巳が人差し指で両方の目尻を吊り上げた。
「室生のやつ、きっとこんな顔して怒るぜ」
みんな一斉に吹き出した。本村がキャッキャッと喜ぶ。
「クリソツー!」
佐久間も腹を抱えた。
「おっもしれー!」
無口な柏崎も声を出して笑っている。本村が甘えるように両手を胸元で組み合わせてねだった。
「ねっ、今日、まだダンクやってないでしょ?見せて」
佐久間たちも頷いている。和巳が少し戸惑っていると、奥住がボールをその場で突いた。
「俺がパス出してやる」
承知した和巳が即ゴール下へダッシュした。奥住がそのコースの先に向かってボールを投げた。本村が大声を出した。
「高すぎるよっ!」
佐久間が目を剥く。
「まさか!?」
和巳がすぐに奥住にパスに反応して高くジャンプした。ぶわっと浮き上がるように飛び、空中で上げた片手にボールを受ける。そのままリングの上から叩き込んだ。ガシャンと大きな音を立てて、ゴールが軋んだ。
佐久間が悲鳴のように叫んだ。
「ア、アリウープ!」(空中でボールを受けてそのままダンクすること)
「キャー、ステキーッ」
本村が黄色い声を張り上げた。柏崎も感心していた。
「すっ……ごい」
和巳がゴール下で両手を振っていた。佐久間が泣きそうになった。
「ったく、奥住にしろあいつにしろ、なんでこんなトコにいるんだよ」
いくらテクが優れていても、性格の悪い室生はこんなトコが似合っているが、このふたりは全然場違いに思えた。
ロッカールームからゾロゾロと連なって事務所に寄った。安仁屋がひとりでいた。和巳が思いきってたずねた。
「……オーナーは?」
安仁屋が肩をすくめた。
「今さっき帰った」
次々にランドリーラックに洗濯物をほおりこんでいく。和巳もほおりこみながら安仁屋を見た。
「安仁屋サン、上がらなかったんですか」
安仁屋が口髭を擦った。
「オーナーがコーヒー入れろって言うからよ、俺も一緒に飲んでたら、帰りそびれたんだ」
とっとと帰れと追い出されて、ガレージを後にした。
佐久間は750CCの大型バイクに乗ってきていた。本村が女のように両膝を合わせてタンデムシートに横座りした。佐久間の腰に腕を巻きつけて背中に頬を押し付けた。
「じゃ、な」
佐久間がにやっと笑って、走り去っていく。柏崎は、原チャリに跨って去っていった。
「あのふたりって…その…」
和巳が見送りながらつぶやいた。奥住が歩き出した。
「恋人同士みたいだな」
本村は以前京杏学園にいたらしいが、自殺未遂するほどひどいいじめに会い、転校したのだという。
「あいつも京杏に…」
「標的にされやすいだろ、ああいうタイプは」
殴り返せばいいのだが、そんなふうにできるやつはもともといじめられない。
和巳と奥住は国道に出た。ちょうどやってきたバスに乗って駅までいった。
奥住の自宅は和巳の最寄駅より先だ。
「じゃ、明日な」
微笑む奥住を車内に残して和巳が降りた。扉が閉まる前にとっとと階段に向かって歩き出す。上りかけたとき、後ろからいきなり腕をつかまれた。誰かと振り向く。
「奥住サン!」
発車間際に降りたのだ。
「言い忘れたことがあった」
バスに乗り継ぐ連中が急いで階段を上がっていく。立ち尽くすふたりに迷惑そうにぶつかってくる。戸惑う和巳を奥住がひっぱって駅を出た。
高架線沿いの道路を歩き出す。そのあたりは、店舗などないので、暗くて人通りもほとんどない。ようやく奥住が話し出した。
「明日、私服を持ってきてほしいんだ。制服で同伴するわけいかないから」
そうか。言われなければ気が付かなかった。
「もし、勝てば必要だからね」
和巳がむっとした。
「当然勝ちますよ、決まってるじゃないですか」
薄暗かったが、奥住が目を見張ったのがわかった。そして細めた。
「そう……だな。うん、そうだ」
何か堪えているように声を詰まらせていた。泣いているのか?まさかな。とにかく、話題変えよう。
「あの、今日はありがとうございます。レイダーの相手してくれて。俺、してやりたいと思ったんですけど、あそこで、他のチームと練習するの、あんまりよくないみたいだったんで」
「俺はよくないっていうより、なまじ練習一緒にして、ゲームの時馴れ合いになったらまずいからって理解してた。でも、ゲームはゲームって割り切ればいいんだし、他のチームは嫌がるだろうけど、レイダーとだったら、これからもやってもいい」
和巳も同意見だ。うなずきあう。
急に奥住が和巳の背後を見つめた。和巳が肩越しに振り返ると、高校生らしい制服のカップルが肩を抱き合いながら歩いてくる。いかにも軟派そうな男子にマスコミ御用達のような女子だ。和巳たちの横を通り過ぎて、すぐ近くの路地に入り、キスし始めた。見せつけているつもりらしい。
「やん……そんなとこ、触っちゃ」
女子がうれしそうに喘いだ。男と女のなんてどうでもいいが、行為自体にはけっこう刺激されて、目の前の奥住が気になって仕方なくなってきた。
……初めて会ったときからだけど…奥住サンと一緒にいると気持ちいい。触ったりしたら……もっといいんじゃないか。オーナーとしたみたいに、キスしたり……奥住サンに俺の触ってほしい。俺も奥住サンの触りたい。
ドキドキしてくる。
……奥住サンだって、自分のこと、けっこう気に入ってくれてるはずだ。俺の気持ち、わかってくれるし、優しくしてくれるし。……かるーくOKしてくれるかも……ダメって言われたら、笑ってごまかしちゃえばいいや。
「あの、俺と、キスしてくれませんか」
顔を赤くした和巳がちらっとカップルの方を見た。奥住がクスッと笑った。
「刺激された?」
和巳が素直に頷くと、奥住がぐっと和巳に近寄った。
「いいよ」
ふたりの手から鞄やドラムバッグが離れてドサッと落ちた。和巳が奥住の体をぎゅっと抱き締めた。奥住の柔らかい髪が顎に触れる。
……うん、思ったとおりだ、すっごく気持ちいい。
奥住の顎が上がった。目を閉じて、待っている唇。首を曲げて、顔を接近させる。そっと、重ねて……なんて、そんな甘いもんじゃない。触れた瞬間、あの荒っぽい欲望が爆発した。貪るような、激しいキス。奥住も応えてくれる。舌を絡ませ、舐め合い、吸い合う。唾液が口端から溢れていく。
カップルの女子がふたりがキスしているのに気付いた。
「やだ、あのふたり、ホモじゃん」
移動していく。すれ違いざま、男子がふたりの方に唾を吐きかけた。
いつもの和巳なら、相手の足腰が立たなくなるまで殴っているが、今は奥住とキスするほうが大事だ。軽蔑したければすればいい。こっちだって、女となんて、まっぴらだ。
奥住のモノが硬くなっているのがわかった。和巳のもとっくにはみ出しそうになってる。奥住が和巳の舌を唇で挟んで扱くようにして囁いた。
「おまえの、舐めたい」
吐息混じり。耳の奥に届く。ぞくっとした。和巳が奥住の手を自分の前に擦りつけた。
「舐めて下さい、俺の」
和巳はそこから徒歩七分の自宅マンションに連れていった。部屋に明かりがついている。母親が帰っているのだろう。
「すんません、家、親いるんで」
建物の外についている非常階段の一番上まで行く。
キス再開。お互いズボンと下着を降ろして握り合う。
……そういえば、初めてだ。自分以外の、握るの……
オーナーとのときは、まったくやらなかった。
そう、これは、確かに自分と同じものなのだけれど、でも、違う。自分とエッチなことして、興奮している奥住のものだ。最高にステキで特別なチンポだ。
ぐいぐい扱き合う。奥住が膝をついた。舌先が先端を割っていく。びくっとした。
感じる。ゆっくりと先っぽの膨らみを舐められる。和巳のは、あまりオナニーもしてなかったが、キレイに剥けていた。柱の表も裏も舌と唇で丁寧に辿られ、擦られて、筋立った血管が破裂しそうになる。
……こういうの、うまいっていうのかも……
そして、ようやく先端から少しずつ含まれていった。
「ああっ……気持ちいいよっ…」
和巳の声のテンションが上がってしまう。奥住の頭を掌で捕らえる。奥住の頭が激しく動き、和巳の腰も動き出した。
突きたくてたまらない。棒全体がぬるった壁に擦られるのも、先が奥に当たるのもメチャいい。オーナーにされてたときは初めてで夢中だったが、今は少し『よゆう』で感じていた。
……口ん中、こんなにいいんだから、アソコの中も……
きっともっと狭くて当たって擦られて気持ちいいはずだ。そう思ったとたん、欲望が突き上げてきた。
……ああ、俺、入れたい!
和巳が呻いた。
「バックに入れたい……」
奥住が口を外して、困った様子で吐息をついた。
「ご免……俺、受け専……入れられるの専門なんだ、だから……」
指で慰めてやるからと奥住が和巳の足の間に手を入れようとした。その手を止めて、和巳が奥住を立たせた。
「俺が奥住サンにチンポ入れたいんだ」
奥住の顔がばあっと輝いた。その嬉しそうな表情といったら……。
「ほんとに?おまえの、入れてくれるのか」
奥住が唇を震わせた。和巳がコクッと首を折った。
奥住が自分で腰をくねって背を向けた。
「こっちから…して…くれ…」
非常口の扉に両手を付いて、尻を突き出した。ゆらゆらと尻が揺れている。
……奥住サン、すごいスケベなんだ。
自分のチンポが欲しくてケツ振ってる。和巳がかーっとなって、硬さが増してきた。舐めた指で探る。すぐに穴にたどり着いた。ひくひくしている。ズッと入れる。
「うっうん……うぅうん……」
奥住が鼻に掛かったような甘い声を出した。背筋にビンビン響く。中を十分にほぐす。その一方で奥住のもいじってやった。奥住が腰を捻って悶える。本当はもっと明るいところで奥住の感じているエッチな顔や先走りでべとべとになっているモノや指でグチョグチョにかき回されているソコを見たかった。
「入れるよ……いい?」
和巳が確認した。奥住が吐息をつく。
「ああ……いいよっ……」
奥住がYシャツの衿元を噛んだ。和巳が奥住の尻に先を近づける。
……さあ、いよいよ入れちゃうぞ。
ワクワクしてくる。谷間に密着させて押し込んだ。
「ぐうっ!」
奥住の悲鳴が噛んでいるYシャツに吸い込まれた。和巳のモノが入っていく。
中に。奥住の中に。
「ぐっうっ、うっ、ううん……あっ、あはぁああっ……」
奥住の喘ぎが防ぎ切れずに漏れてくる。色っぽいってこういう声だ。いい声。今度は背筋だけでなく脳ミソ直撃だ。
入っているモノが、中でぎゅっと絞られる。こんなにキツイなんて。ぎゅっぎゅっと締まってくる。こんなに気持ちいいなんて。
奥住の腰を掴み、激しく動かし出した。
きっと自分の中には、男でないと吼えない『獣性(ケダモノ)』が棲んでいるのだ。そして、吼え出すと、止められない。もう暴走状態だ。
「ああっ!いい、凄く!気持ちいいっ!」
声を出してはまずいのに押さえきれない。出し入れしていると、グヂュグヂュと濡れたいやらしい音がしてきた。
「うわぁ、すごい、いやらしい音がする!」
和巳がわめくと奥住が恥ずかしがって否定するように首を振った。背中から抱き締めてズウンと奥まで突っ込んだ。奥住が背中を逸らした。
出るっ!
「おくずみ…サン…のケツ、いいぃっ…」
体の中で吼え続けていた『獣性(ケダモノ)』が最後の咆哮を上げた。一気に吹き上がっていく感じで射精していた。奥住もイッていて、扉に飛び散らしていた。
和巳はしばらく奥住を背中から抱き締めていた。快さの余韻に浸り、荒くなった息と熱い体が納まるまで。オーナーに犯られたときはこんなに凄くていいんだと驚いたが、犯るのもとってもいいと浸っていた。
奥住も吐息を何度もついて、快感に酔っているようだった。
ズボンを履いてから、ふたりで扉の汚れをポケットティッシュで拭き取った。
「なんか、マヌケッぽいですよね、こういうの」
和巳が照れ隠しに拗ねたように唇を尖らせた。奥住が大人びた微笑を浮かべた。
ようやく始末し終えた。
「明日、晴れそうだよ」
奥住が夜空を見上げ、和巳もつられて見上げていた。ほんの少しの星明りがけっこうキレイに見えたような気がした。
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